051352 ランダム
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TRICK PARTY

TRICK PARTY

distance night10

空気が凍る。

「……死?」

「そう。死だ」

「えーっと、どうゆうこと?」

「あの紋様がでたら、本当に死が目前に迫っている証拠だ。紅の紋様の中のマーク、覚えてるか?」

「ううん。アレ見たときは衝撃すぎたから」

「そうか。紋様の中身、『砂時計』だ」

「砂時計?そんなものが……」

思い返すと、たしかに三角形が二つ逆さになって描いてあった気もする。

「……あったかも」

「だろ?あの上にある砂が下まで全部落ちると、そいつが消滅するんだってさ」

「え!?絵が動くって事?」

「壁をすり抜けられるんだし、それぐらいもう驚くことでもなかろ?」

「そうだけど……」

と、あたしは一つの重要な事に気付いた。

「ちょっと待って!まさか……!」

あたしはナストの右手を奪うようにして取った。

同時に手袋をはぎ取る。

あたしの悪い予感が当たってない事を願って。



……ナストの右手を、見た。



「……どした?」

そこに不気味に輝く紋様は、ない。

「よかったぁ~……」

あたしは床にへたりこんだ。

「ああ、オレか?」

「まだナストは大丈夫なんだね」

「まあな~。オレ、強いから」

「な~に言ってんのよ」

あたしは笑いながらナストに“ごっとふぃんがあ”をかました。

「おぐえっ!?」

「あ、ごめん。安心してつい……」

「ついっておま……!」

「いや、マジだ。今回は故意ではなかった!」

「あにゃ~、お星様とお月様が見えるぅ~」

「あれ?じゃんけん知らないのに、月とか星とかは知ってるんだ」

あたしはこの世界の空に何もなかった事を思い出して言う。

「ああ、そりゃな。そっちの世界ではよく見るからな。オレらは夜活動だし」

「な~るほど。そういえばそうかあ」

「うん、あれは美しいな。うちには人工の光しかないし。自然の光ってのはホントに綺麗だ」

ナストが遠い目をして語る。その目線は窓に向けられているが、やはりその先の夜空に月も星もない。

「ってことは……太陽は見た事、ないんだ?」

「太陽?あ~あれか?あのそっちの『昼』に出てくる月か?」

「そうそう。もっと明るいけどね。あれこそ自然の明かりの最たるものだよ?」

「マジか。見てみたいなぁ……」

「ふっふ~ん。あ・た・し・が見せてあげよっか?」

「なんだどうした?いきなり気持ち悪いぞ?」

遠い目から一転、変な目でこっちを見る。

「いやあ、昼間にナストと連れたって歩くのも楽しいかなって」

「そっちか?まあ別にいいけど。俗に言う『デート』だな?」

「ま、そんなとこ。あたしがあっちの世界の案内もかねて」

「ほぉ~、おもしろそーじゃねーの」

「よ~し、決まり!」

「……ま、ここから出られたら、だけどな」

言葉の瞬後、空気の温度が下がった。

「ちょっと!そういうこと言わないでよね!テンション下がるでしょ!」

「まあ、事実だしな。大丈夫。願えば叶うさ!」

キランッという効果音が出そうな笑顔で、ナストが微笑む。

「じゃ、約束」

あたしは右手の小指を出して言った。

「お?これはもしかして?『針千本飲ます!指切ったぁ!』ってやつか?毎回思うんだけどよ、なんで針を千本飲んだ上に指まで切られなくちゃならんのか?」

「両方とも意味が違う!てか『指切り』ってのはこの小指と小指のヤツの事を言うの!」

「あ、そなのか?よ~っし、じゃあ約束だ」

ナストも右手の手袋を取って、あたしの小指に絡ませる。

「かけ声、知ってる?」

「あ~、なんとなく」

「よし。それではご斉唱ください」

あたしは笑いかけると、小指を軽く振り、ナストと一緒に決まり文句を言った。

「「指きりげんまん 嘘ついたら針千本飲ま~すっ 指きったっ♪」」

ぴんと指が離れる。

にかっとナストが笑った。

「なかなかおもしれーもんだな、こういうの。いままでやったことないしなあ」

「まあこんな世界じゃね。あたししかこんなことできる人はいないもんね~。あ・た・し・し・か!」

「さあて、寝るかな。そろそろ眠いよ」

「軽く無視られた!?」

わざとらしいあくびをしつつ、ナストがシーツにくるまる。

「入るか?」

ぽんぽんと自分のベッドを叩きながらナストが言った。

「……誘ってる?」

「何を?あえて言うけどベッドに入る事は誘ってるぞ?」

「あ~、何を言っても無駄そ~。いいわよ、そこまでは。別に床でも寝れるし」

「そうか?張り合いがねえな……」

「ど~せね」

「レディを床で寝かせるのは忍びないが、まあそっちが選んだことだし、いっか。レディかどうかも怪しいもんだが」

「ちゃらら~ん♪あたしの右手の指が光っちゃうぞ~♪」

「はいおやすみ~。じゃあまた明日~」

逃げるようにシーツにもぐりこみ、ナストいびきをたて始めた。

ま、今日のところは許しとこうか。さすがに一日4回はキツかろう。

あたしは背中を壁に預け、目を閉じた。

二つの世界を渡り歩き、色んな環境の変化を体験したあたしは、いつ寝るともなく眠りに落ちていた。

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