distance night10空気が凍る。「……死?」 「そう。死だ」 「えーっと、どうゆうこと?」 「あの紋様がでたら、本当に死が目前に迫っている証拠だ。紅の紋様の中のマーク、覚えてるか?」 「ううん。アレ見たときは衝撃すぎたから」 「そうか。紋様の中身、『砂時計』だ」 「砂時計?そんなものが……」 思い返すと、たしかに三角形が二つ逆さになって描いてあった気もする。 「……あったかも」 「だろ?あの上にある砂が下まで全部落ちると、そいつが消滅するんだってさ」 「え!?絵が動くって事?」 「壁をすり抜けられるんだし、それぐらいもう驚くことでもなかろ?」 「そうだけど……」 と、あたしは一つの重要な事に気付いた。 「ちょっと待って!まさか……!」 あたしはナストの右手を奪うようにして取った。 同時に手袋をはぎ取る。 あたしの悪い予感が当たってない事を願って。 ……ナストの右手を、見た。 「……どした?」 そこに不気味に輝く紋様は、ない。 「よかったぁ~……」 あたしは床にへたりこんだ。 「ああ、オレか?」 「まだナストは大丈夫なんだね」 「まあな~。オレ、強いから」 「な~に言ってんのよ」 あたしは笑いながらナストに“ごっとふぃんがあ”をかました。 「おぐえっ!?」 「あ、ごめん。安心してつい……」 「ついっておま……!」 「いや、マジだ。今回は故意ではなかった!」 「あにゃ~、お星様とお月様が見えるぅ~」 「あれ?じゃんけん知らないのに、月とか星とかは知ってるんだ」 あたしはこの世界の空に何もなかった事を思い出して言う。 「ああ、そりゃな。そっちの世界ではよく見るからな。オレらは夜活動だし」 「な~るほど。そういえばそうかあ」 「うん、あれは美しいな。うちには人工の光しかないし。自然の光ってのはホントに綺麗だ」 ナストが遠い目をして語る。その目線は窓に向けられているが、やはりその先の夜空に月も星もない。 「ってことは……太陽は見た事、ないんだ?」 「太陽?あ~あれか?あのそっちの『昼』に出てくる月か?」 「そうそう。もっと明るいけどね。あれこそ自然の明かりの最たるものだよ?」 「マジか。見てみたいなぁ……」 「ふっふ~ん。あ・た・し・が見せてあげよっか?」 「なんだどうした?いきなり気持ち悪いぞ?」 遠い目から一転、変な目でこっちを見る。 「いやあ、昼間にナストと連れたって歩くのも楽しいかなって」 「そっちか?まあ別にいいけど。俗に言う『デート』だな?」 「ま、そんなとこ。あたしがあっちの世界の案内もかねて」 「ほぉ~、おもしろそーじゃねーの」 「よ~し、決まり!」 「……ま、ここから出られたら、だけどな」 言葉の瞬後、空気の温度が下がった。 「ちょっと!そういうこと言わないでよね!テンション下がるでしょ!」 「まあ、事実だしな。大丈夫。願えば叶うさ!」 キランッという効果音が出そうな笑顔で、ナストが微笑む。 「じゃ、約束」 あたしは右手の小指を出して言った。 「お?これはもしかして?『針千本飲ます!指切ったぁ!』ってやつか?毎回思うんだけどよ、なんで針を千本飲んだ上に指まで切られなくちゃならんのか?」 「両方とも意味が違う!てか『指切り』ってのはこの小指と小指のヤツの事を言うの!」 「あ、そなのか?よ~っし、じゃあ約束だ」 ナストも右手の手袋を取って、あたしの小指に絡ませる。 「かけ声、知ってる?」 「あ~、なんとなく」 「よし。それではご斉唱ください」 あたしは笑いかけると、小指を軽く振り、ナストと一緒に決まり文句を言った。 「「指きりげんまん 嘘ついたら針千本飲ま~すっ 指きったっ♪」」 ぴんと指が離れる。 にかっとナストが笑った。 「なかなかおもしれーもんだな、こういうの。いままでやったことないしなあ」 「まあこんな世界じゃね。あたししかこんなことできる人はいないもんね~。あ・た・し・し・か!」 「さあて、寝るかな。そろそろ眠いよ」 「軽く無視られた!?」 わざとらしいあくびをしつつ、ナストがシーツにくるまる。 「入るか?」 ぽんぽんと自分のベッドを叩きながらナストが言った。 「……誘ってる?」 「何を?あえて言うけどベッドに入る事は誘ってるぞ?」 「あ~、何を言っても無駄そ~。いいわよ、そこまでは。別に床でも寝れるし」 「そうか?張り合いがねえな……」 「ど~せね」 「レディを床で寝かせるのは忍びないが、まあそっちが選んだことだし、いっか。レディかどうかも怪しいもんだが」 「ちゃらら~ん♪あたしの右手の指が光っちゃうぞ~♪」 「はいおやすみ~。じゃあまた明日~」 逃げるようにシーツにもぐりこみ、ナストいびきをたて始めた。 ま、今日のところは許しとこうか。さすがに一日4回はキツかろう。 あたしは背中を壁に預け、目を閉じた。 二つの世界を渡り歩き、色んな環境の変化を体験したあたしは、いつ寝るともなく眠りに落ちていた。 ←Back ↑Home Next→ ジャンル別一覧
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